PHP8系は8.0のリリースから始まり、8.1、8.2とマイナーバージョンアップを重ねる中で、開発現場において役立つ多くの新機能や構文改善が導入されてきました。
本記事では、これらの新要素のうち、業務で特に活用しやすいものを優先してまとめ、どのような場面で役立つかをわかりやすく解説します。
最後にあまり使われない機能や細かな改善点をリストアップしますので、全体像を整理する際の参考にしてみてください。
PHP8.0で注目したい新機能・改善点
Union Types(ユニオン型)
PHP8.0では関数やメソッドの引数、戻り値に複数の型を指定できるユニオン型が導入されました。
これにより、string|int
のような宣言が可能になり、柔軟な型指定を通じて、コードをより明確に記述できます。
function processData(string|int $value): string|int {
// 入力が文字列でも整数でも受け取り可能
return $value;
}
この機能によってコードベースが複雑な場合でも、型情報で開発者同士の意思疎通がしやすくなります。
Named Arguments(名前付き引数)
関数呼び出し時に引数名を明示し、任意の順序で引数を指定できるようになりました。
これにより、引数が多い関数でも読みやすいコードが書けます。
function createUser($name, $role = 'user', $active = true) {}
createUser(
name: "Taro",
active: false
);
引数の意味が明瞭になり、後から引数が増えてもメンテナンスがしやすくなります。
Attributes(アトリビュート)
PHP8.0では、コードへメタデータを付与する仕組みとしてアトリビュートが追加されました。
これまでDocCommentで擬似的に扱っていたメタ情報を、ネイティブ構文で安全かつ効率的に扱えます。
#[Route("/users")]
class UserController {
// ...
}
フレームワークでのルーティング定義や、ORMでのエンティティ設定など、メタ情報をスマートに記述できます。
Match式
switch
文に代わるマッチ式は、より表現力が高く、式として値を返すことができます。break
記述も不要なため、コード量が減り可読性が向上します。
$result = match($status) {
200 => "OK",
404 => "Not Found",
default => "Unknown"
};
Nullsafe Operator(Null安全演算子)
$object?->property
のような記法で、$object
がnull
の場合でもエラーにならずnull
を返す構文です。
ネストしたオブジェクトチェーンが長い場合でも、いちいちisset()
チェックを挟まずにすっきり書けます。
$userName = $user?->profile?->getName();
Constructor Property Promotion(コンストラクタプロパティ昇格)
コンストラクタ引数に修飾子(public
、private
、protected
)を付与することで、クラスプロパティの宣言と代入処理が簡潔になります。
class User {
public function __construct(
private string $name,
private int $age
) {}
}
これによりクラス定義が短くなり、ボイラープレートコードを減らせます。
PHP8.1で注目したい新機能・改善点
Enums(列挙型)
PHP8.1で登場した列挙型は、定数の集合を表すクラスのような機能です。
列挙型を使うことで、状態管理や定数管理が明確になり、コードの意図が伝わりやすくなります。
enum Status {
case Draft;
case Published;
case Archived;
}
文字列や整数定数の羅列よりも堅牢で、IDE補完やバリデーションも容易になります。
Readonly Properties(読み取り専用プロパティ)
クラスプロパティにreadonly
を付けると、初期化後に変更できなくなります。
これにより、不変オブジェクトや安全なデータモデルの構築が容易になり、予期せぬ値変更による不具合を防げます。
class User {
public readonly string $name;
public function __construct(string $name) {
$this->name = $name;
}
}
array_is_list()
関数
与えられた配列が連続的な数値インデックスを持つリストであるかを判定する関数です。
配列構造を動的に扱う場面でコード分岐を明確に書けます。
$array = [1,2,3];
if (array_is_list($array)) {
echo "This is a list.";
}
PHP8.2で注目したい機能・改善点
Readonly Classes(読み取り専用クラス)
クラス全体をreadonly
として定義することで、すべてのプロパティが初期化後は不変になります。
より強固な不変データモデルが構築しやすく、ドメインモデルの表現に役立ちます。
追跡が難しい変更点や小規模改善
PHP8.2では、final
クラス定数、敏感なパラメータに関する改良や、データ取得時の挙動改善など、細かな使い勝手向上が行われました。
これらはコードの整合性を強化し、長期的な保守を容易にします。
その他あまり使わない機能・変更点リスト
- PHP8.0以降
- Just-In-Time(JIT)コンパイラ:特定のパフォーマンス重視ケースで有用ですが、汎用的な業務アプリケーションでは効果が限定的な場合があります。
fdiv()
関数による浮動小数点除算向上
- PHP8.1以降
- Intersection types(交差型) : より厳密な型指定が可能ですが、特殊な設計でのみ利用頻度が高まります。
never
戻り値型 : 戻り値を返さず常に例外発生またはスクリプト終了する関数用
- PHP8.2以降
- Disjunctive Normal Form (DNF)型 : 複雑な型表現が可能ですが、実務で多用されるケースは限られます。
まとめ
PHP8.0以降のバージョンアップでは、型システムのさらなる拡張や、開発者体験向上のための構文追加、データモデルの明確化を促す機能などが続々と追加されてきました。
ユニオン型や名前付き引数、マッチ式、アトリビュートといった機能は、日々のコーディングをよりシンプルで明快なものへと導きます。
また、PHP8.1のEnumsやReadonly Properties、8.2のReadonly Classesは、ドメインロジックを安全かつ明確に表現する上で有用です。
こうした機能を理解し、適度に取り入れることで、コードベースの保守性や堅牢性、可読性が大きく向上します。
ぜひこれらの新機能をうまく活用し、より洗練されたPHPアプリケーションを構築していってください。